垂直方向結合を有するリング共振器のFDTD計算

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この質問に関しては、以下の文献の構造を例題として採用した。
S. T. Chu et al., “An eight-channel add-drop filter using vertically coupled microring resonators over a cross grid,” IEEE Photon. Technol. Lett., vol. 11, pp. 691-693, June 1999.

文献から解析構造は図1となる。


図1.リング共振器の(a)全体構造と(b)断面構造


図1(b)の値は、文献より表1となる。

表1.断面構造定数
パラメータ(記号)
Wr(μm) 1.5
Wb(μm) 2.0
R(μm) 10.35
tr(μm) 1.5
te(μm) 0.25
tstep(μm) 0.35
tb(μm) 0.50
d0(μm) 0.8
ns 1.4508
nc 1.6532

この垂直方向結合のリング共振器をAPSSでシミュレーションするには、導波路としてのバスライン(図1(b)の赤点線部分)を導波路モジュールで計算し、それを用いてAdd-on Shape(青点線部分)でリングを付加する。
まず、赤点線部分の導波路解析について記す。バスラインとして用いる導波路はWbのみでWrは無関係であるが、APSSでは用いる導波路幅全ての情報があることが確認されないと3次元解析が許されない。従って、図1のWrとWbの幅が異なるので、図1のデバイス(リング共振器)を3次元解析するためには、2種類の導波路幅(WrとWb)でのモード計算を予め行わなければならない。図2は赤点線部分の構造である。


図2.バスライン部分の導波路構造


図2では、デバイスを構成したときにリング部(図1の青点線)部分を追加するのでチャンネル導波路上部のAir層はそのことを考慮して厚い解析領域が選択されている。異なる導波路幅の解析は図3に示すscan機能で行う。図3ではW=1.5μmと2.0μmの2水準が計算されている(赤四角参照)。



図3.Scan機能を用いて2種類の導波路幅でのモード計算


上記のScan機能を除いては他の導波路計算と同じである図4の赤丸で示すように、View Simulation Resultsボタンが有効になっていれば計算が正常に終了していると判断できる。


図4.導波路のScanモードでの計算が正常終了した状態


以上で導波路の準備ができたので、次に上位階層のデバイスプロジェクトを作成する。
新規のデバイスプロジェクトを選択し、使用する導波路プロジェクトとしては上記で計算済みの導波路プロジェクトを選ぶ。図1(a)のリング共振記は水平バスライン、垂直バスラインとリングから構成される。リングに関しては、図1(b)よりクラッド層とコア層の積層構成である。APSSのデバイスプロジェクト作成では、Ring1(クラッド)とRing2(コア)の積層としてAdd-on shapeを用いて表現する(図5参照)。なお、リングの導波路幅はWrとする。


図5.垂直方向にギャップを持つリング共振器描画プロセス



図6.ユーザ定義変数


主として表1に関係する構造定義変数は図6のようにUser Definedで定義し、後で柔軟に構造変化に対応できるようにする。このようにして作成されたデバイスプロジェクトを図7に示す。



図7.垂直方向にギャップを持つリング共振器


Ring1(クラッド)とRing2(コア)の部分のAdd-on shape情報をそれぞれ図8および9に記す。



図8.Ring1のAdd-on shape情報



図9.Ring2のAdd-on shape情報


水平方向のバスラインポートに1.55μmの信号を入力して、500μm伝搬の計算を実施した結果を図10〜12に記す。図11に示すようにバスラインから垂直に形成されたギャップを通してリングに結合していることがわかる。


図10.バスライン導波路コア中央(x=0.25μm)でのフィールド分布



図11.リング導波路コア中央(x=1.85μm)でのフィールド分布



図12. z=14μmでの断面でのフィールド分布