曲げ導波路の最小曲げ半径の設計

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光集積回路設計では、最小曲げ半径の設計は回路の性能、占有面積から生じる歩留まりコストなど仕様を満足させるには重要な課題の一つである。

導波路構造でモード解析から閉じ込め損失を計算して閉じ込め損失が大きくなる曲率半径を評価する方法は計算に負荷がかからなく正確に曲げ損失を求めることができる。本説明はA-W6で用いたSOI(Silicon-on-insulator)技術の導波路で行う。導波路は400nm×200nm (K. Yamada et al., Optics Lett., vol. 28, pp.1663-1664, Sept. 2003)ではTE/TMモード共にシングル条件を満足しているので、この寸法を用いる。また、波長は1.55μmとした。導波路解析では、通常は対称性を利用して左右の半分だけ解析し、シミュレーションの効率化を行なう。しかし、曲げを含んだ解析では、曲げ効果を等角写像で屈折率変化として反映させ、直線導波路とみなしてモード解析を行う(たとえば、國分「光波光学」8.5節, 共立出版株式会社, 1999)。そのために、モード解析はデバイス全領域でなければならない。

図1はA-W6で用いた導波路と同じ寸法(Geometry)、屈折率(Materials)で解析領域のみ全領域としたものである。



図1.シリコン細線導波路の全体形状


図1で”Run Simulation” (赤丸)をクリックすると図2が現れる。



図2.解析設定画面


“Waveguide Type”は”Bending”(赤丸)を選択し、半径Rの右のテキストボックス(赤四角)にはμm単位で曲げ半径を入力する。図2の例ではR=5μmである。Mesh Settingに関しては通常の解析どおりである。図2でGeneral Informationの設定が終わったら、タブをFD Mode Solver Setting (青丸)に切り替えると図3となる。



図3.FD Mode Settingの入力

今回の設計では、X(TM)とY(TE)偏波について求めるので偏波はX/Y(赤丸)とする。閉じ込め損失の計算には複素数でのリーキーモード計算となるので、Modeは”Complex”(赤四角)を選択し、基本モード(モード数1)のみを計算することする。境界条件はPMLを選択し、その値はデフォルトとする。正常な閉じ込め解が得られない場合には”Advanced Setting”を開いて初期解を設定する。全ての設定が終了したら、”Run” (青丸)をクリックする。
正常に計算が終了すると図4の画面となる。




図4.モード計算が正常終了したときの画面


ここで、”View Simulation Results” (赤丸)をクリックする。



図5.結果表示画面


図5の結果表示で、表示させるメニューは”Gain/Loss” (赤丸)、偏波はX表示がデフォルトなので、引き続きY(青丸)を選択して、Showボタン(青四角)をクリックすると図5のような最終表示となる。ここで、図5の”Copy/Save Plots”(赤四角)をクリックする。



図6.ファイル出力を定義する画面


図6が出現する。ファイルはデフォルトの「テキスト」のままとして、赤丸をクリックして、File Nameを定義する。図7が開くので、ファイル格納場所(赤丸)とファイル名、青丸を指定し、保存(赤四角)をクリックする。



図7.ファイル名入力画面


その結果、図6の画面は、図8となる。



図8.ファイル名が定義された図6の画面


図8に示すように、一部文字化けのように見えるが、気にしないで、OK(赤丸)をクリックする。その結果、図7で指定した場所に、指定したファイル名がテキストファイルでできている。これを、メモ帳またはワードパッドで開くと、図9のようになる。ここで閉じ込め損失が負の値となっているのはロスを示すためである。



図9.X偏波とY偏波に対するR=5μmでの曲げを含む閉じ込め損失値


曲げ半径Rを変化させて、X偏波とY偏波の閉じ込め損失を同様な作業で求めて、それらの値をグラフソフトで表示すると、図10の結果が得られる。このプロットでは、ロスを正として表示してある。



図10.閉じ込め損失の曲げ半径依存性

このように表示することで、曲げによって閉じ込め損失が増大しない最小の半径を選択することで、最小の曲げ半径を設計することができる。図10では、Y偏波(TEモード)の特性が優れ、X偏波(TMモード)では半径5μmの曲げでは既に漏れが生じることがわかる。

Y偏波でのR=2μmと0.5μmのときのフィールド分布をそれぞれ、図11, 12に記す。これらの図からも、R=2μmではフィールドの漏れがほとんど無く、R=0.5μmでは漏れが顕著であることが良くわかる。これらの事柄は図10の結果とも一致し、APSSによりデバイス内部での現象まで十分に理解して、最小曲げ半径を設計することができる。



図11.R=2μmのときのフィールド分布(矢印が曲げの方向)



図12.R=0.5μmのときのフィールド分布(矢印が曲げの方向)


これらの結果、論文の著者Yamadaらが採用しているTEモードでの曲げ半径R=2.5μmは余裕ある最小曲げ半径であることもわかる。